子どもにまつわる悲しい事件が続いている。大人の子どもに対する暴力が、子ども同士の間にも起こってきた。日本中に衝撃が走ったといってもよい。われわれ大人は、子どもたちからその実存に関わる問題を突きつけられた思いである。この夏「誰も知らない」という映画が公開され、話題を呼んでいる。主役の柳楽(やぎら)優弥君が史上最年少でカンヌ映画祭最優秀男優賞をとった。きっと話題になるだろう。このフィルムの「生きているのは、大人だけですか。」というメッセージは、子どもの世界から大人たちへの悲痛な抗議の叫びである。

  いま児童養護施設は、身勝手な大人の生き方から、はじきだされた子どもたちを受け入れて懸命に育てている。園で働いていて思うことは、小さく、いたいけないのちに向けられる暴力、虐待、ネグレクトが急速に広がっていることである。暴力が暴力を、虐待が虐待を生んでいる。国と国、民族と民族の間で続いている憎しみの連鎖が、こどもたちの世界を巻き込もうとしている。

  われわれは、園に生きる子どもたちへの働きかけを通して、ささやかでもこの流れに対抗していきたいと思っている。サレジオに育つ子どもたちが、われわれの処遇を受けて、人の愛を知り、また愛することの素晴らしさを知ってくれれば、この不幸な連鎖は食い止められるかもしれないと思っている。

  そのためにも今年度、われわれは子どもの居住空間をさらに快適にして、さらにゆったりと「自分の場」で「自分の時」を、こどもが過ごせるように取り組んでいきたい。進まないことは退くことである。みずからそう心に銘じてサレジオ学園は明日に向けて進んでいきたい。今後とも皆様方のご指導とご支援をお願い申し上げます。

2004年7月1日