私たちは20年前、子どもたちにベストの環境を与えたいという意気込みで園舎の全面的な建て直しを試みた。坂倉建築研究所の建築家の方々とめぐり合えて、私たちの思いは建築という形で具現化することができた。サレジオの総合計画は建築学の視点からも稀有の作品であったようで、その年の日本芸術院賞を始め吉田五十八賞、村野藤吾賞、日本色彩大賞と建築に関わる大賞を独占した。これからの児童福祉施設の園舎のあり方に一つの方向を示せたと思っている。

  この新しい園舎の中で子どもたちの処遇をはじめて20年間、様々な生い立ちの、様々なタイプの子どもたちが、この学園で生活し、成長していった。彼らの幼いときの眼差しや中高生になって逞しくなったときの感動など、いまもなお思い浮かんでくる。しかし卒園して皆が順調にいっている訳ではない。苦労している若者も少なくないのが現状である。

  聖書にはイエスが迷った小さなこひつじを探しに行く喩え話がある。イエスは迷子の一匹にいのちをかける。そして百匹を救いあげてみんなを救う。神の全能の力はこんなところにこそ現れる。これは福祉の理想でもある。しかしそうたやすくはいかないのが現実であろう。あるときイエスはさらに「人にできないことでも神はできる」ともいわれた。だから私たちはイエスの言葉を信じ、子どもたち一人ひとりの救いを願って最善をつくし、あとは全能の神のいつくしみにゆだねていきたい。

  むろん、私たちは子どもたちの彼岸の救いだけを考えているのではない。むしろ彼らの人間としての全面的な向上と自己実現を目指している。それには少年時代の過ごし方が大きな鍵になるだろう。どうしたら子どもたちに良い少年時代を与えられるか。この強い思いは「与えられた条件の中でより良いものを与える」というサレジオの養護の理念に凝集している。